DESIGN TODAY
世界の最新デザイン事情

一本のストローから・・・オーストリア滞在記 part Ⅱ
by sound artist mamoru

2009/05/08
オーストリアに来てから、早3ヶ月。気候も良くなってきて、春到来です。街中で見かける人たちの服装は、春を通り越して夏さながらです。
ほとんどのカフェも店内にはあまり人がいなくて、皆、オープンカフェやテラスで日光を浴びつつ過ごしています。半裸状態で日に当たっている人たちもかなりいて、この時期としては少しおかしな光景に見えなくもないのですが、私も長い冬の間、陽光を待ちわびる気持ちを経験したので、共感するところがあります。

▲ 氷を用いた作品、とても繊細な音がする
▲ カラフルなディスカウントショップの店内
▲ MQのレジデンス内の私のスタジオ
雪どけの季節というのを、特に意識したわけではないですが・・・(笑)、先月参加したオランダのアートフェスティバルでは氷を用いた作品を発表しました。
あらかじめ製氷する際に、フック付きの糸をたらし込んでおき、天井側からもフック付きの糸をつけておき、会場に居合わせた人たちと一緒に氷を吊るす作品です。ただの氷と糸(テグス)で特殊な経験を生むことができ、氷が溶けることで時間の性質も変化させてしまいます。
氷から滴る雫はガラス瓶でうけるため、水のやわらかい音、ガラスの硬質の音が、空間にものすごく間をおきつつ響きます。ときおり自重に耐えれなくなった氷が塊のまま瓶の中に落ちたり、縁に当たって砕けてみたり、床にたたきつけらて崩れたり、あきらかに人の手が加わった装いなのですが、音はすぐに人の手を離れて、あたかも自生し、思いがけない瞬間を生んでくれます。気象条件にもよりますが、だいたい数時間はもちます。










私の作品は現地調達のマテリアルが多いのですが、行く先々のスーパーなどを回るのも楽しみです。オランダはデザイン先進国かつお花の国だからでしょうか、ディスカウントショップのガラス花器でも大きくて、お洒落なものも安く手に入りました。





4月からウィーンの中心のミュージアムクオ
ーター、通称MQ(http://www.mqw.at/)にあるレジデンスに引っ越しました。
MQは、美術館やそのほかの文化施設が集中しており、いつも何かしらアート、建築、デザイン、ファッションなどのイベントや展示が開催されています。地下鉄の駅、劇場やショッピング街などが目の前にある好ロケーションで、かなり便利ですが、その分、夜遅くまでうるさいです。
MQ側が用意してくれたスタジオは、Helmut und Johanna Kandlという建築ユニットがデザインしたものだそうです。ギャラリーのような白い空間の建物で、私のスタジオは写真のような感じです。
( http://quartier21.mqw.at/Artist-in-
Residence/
)




先月14日から、MQ内の一つのギャラリースペースで個展がスタートしました。これまでオープニングを含めて3個所でパフォーマンスを行い、忙しく過ごしています。
個展の内容は、前回のpart Ⅰで少しご紹介したサランラップの音を取り上げた4つの作品で構成されています。有難いことに好評で、オープニングの後もたくさんの人たちが来てくれています。
▶オープニングパフォーマンス
http://foto.esel.at/gallery2/v/dokumentation/coded-cultures/mamoru-okuno/
▶展示
http://foto.esel.at/gallery2/v/dokumentation/coded-cultures/mamoru-okuno/
tf_exhibit/

▲ MQでのパフォーマンスの様子
ちなみに、サランラップの音との出会いはかなり前で、10年ほど前に空間音響の作品を作っていた時だったと思います。当時、制作していた作品が、イメージしていた音と比べて、録音された音がどうも"綺麗"すぎたため、何か"汚す"ための手立てがないかな、と思いあぐねていました。夜中に制作を終え、自分のアパートで前の日の食べ残しか何かを電子レンジで温めて食べようとした時に、テーブルの上でかすかに響くサランラップの音を聞いたのがきっかけです。綺麗すぎた音に録音したラップの音を重ねると、イメージ通りの"ひび割れた"ような印象を作りだすことができました。
日常に潜むささやかな音を感じることに説明はつきませんが、自分なりの美意識、音意識の発見が影響しているのは間違いありません。日本古来の美意識(と言っても変遷がありますが)、音意識(同じく・・・)などを、自分の中にも発見するようになったのはニューヨークに留学していた最中でした。日本から送られてきたカレンダーに光琳の紅白梅屏風があしらわれていて、何気に眺めていただけでしたが、ある時に異様な造詣だな、と"日本"に興味をもちました。雅楽、能、三味線音楽などにも興味をもち、いろいろと書籍なども読みました。
今、取り組んでいるetudeシリーズは現代アートの文脈とは別に、ある種の茶の湯からうけるインスピレーションも大きい要素です。経済的に価値のない竹を使用、ひび割れたような日用の器を中国伝来の高価な器に等しいとする日常や日用品に対する特殊な美意識、もてなしを主眼に置き、茶室内においては上下関係さえも不問とするような・・・、空間や時間、そして人間関係、社会構造にまでに踏み込んだ革新的な芸術観には驚嘆します。

日本的などと言ってみましたが、身の回りに     あるものを使い何かを作り、そのモノに価値を与えるというのは、とても原始的な行為です。原始時代と比べれば、もちろん大量生産消費社会である現代では様相が異なるわけですが、そこに働いている人間の本能というものは変わらなかったりするのではないか、と思います。ここオーストリアにも、同じ類の興味を持った人たちがいるので、私の作品も受け入れられているのだと思います。

▲ ANITAさん(左)とKARINさん(右)
▲ KARINさん作のチューブで作ったバッグ
▲ ANITAさんが靴下を継ぎ合わせて作った服
そう言えば、ここ数日、MQでファッション関係のMODEPALASTという大きなイベントがありました。イベント全般の詳しい記述は避けますが、そのイベントで出会った、自転車のチューブを素材にカバン、財布、ベルトなどを作っているKARIN(カリン)さんや、靴下(!)を縫い合わせてドレス服やカジュアルな服を作っているANITA(アニータ)さんもそんな感覚を持ち合わせているのでは・・・と思い、興味を持ちました。

KARINさんは、彫刻や立体作品制作がもともと専門なのですが、自転車のメールメッセンジャー会社で長く働いているそうで、日々、チューブを目にし手で触れるうちに、傷や何かの痕跡などのランダムな要素、触れた時のテクスチャーに魅せられていったそうです。その結果、完全ハンドメイドでプロダクトを作る、ということになったそうです。
現在、ドイツ語のみのようですが、カタログ
っぽいページが見れます。近々お店を出そうと計画中らしいので、それまでには英語サイ
トもできるみたいです。
http://kontiki.or.at/kontiki_taschen_
katatalog_2009.htm

なお、KARINさんが作っているバッグが、ニューヨークで開かれれるインディペンデントハンドバッグデザインコンペのエコ部門で、ファイナリストにノミネートされたそうです。WEBでも投票できるそうなので、是非応援してあげてください。
http://www.hbd101.com/handbags?finalist=1693

ANITAさんは、建築を専攻していたということですが、ある時、よく行くディスカウントマーケットで山積みにされている靴下のおかしさを再認識し、何かできないかという出発点から、現在のエレガントにも見えてしまう作品を作りだしたそうです。靴下独特の表面の複雑さが、3次元的な要素としてそそるものがあるらしく、気に入っているということでした。ひとつひとつ違う縫い合わせ方になるため、もちろん全て1点ものです。
ANITAさんのサイトは、彼女とブランドの略歴などが中心ですが、展示会の雰囲気なども見れます。もうすぐ展示があるそうですが、イベントで知り合った関係先からの注文が増えて大変だ、と言っていました。
http://www.unartig.com/

考えてみると、全く言葉が通じなくとも、例えば、Tシャツをあげればかなりの国で意味がすぐに通じるわけです。ペットボトル飲料しかり、ストローしかり、サランラップしかり。おそらく、自転車チューブもくつ下も。文化的な背景から少しづつ違いはあるわけですが、これは、水、光、土などの原始的な共通言語に匹敵してしまうほどの現象であるわけです。
私のようにあちこちで活動するアーティストの視点からしてみると、グローバル経済の浸透がマスプロダクトを中心として、 新しい"言語"を作っていることはとても面白いことです。私の作品もそういった"言語"が作り出している既成概念を背景にして、それをずらしてみた り、おもしろおかしく提示してみたり、別の可能性を見せることから生まれます。

彼女達との出会いから、 私的な経験と興味がアーティスティックな仕事と結びついている時に、まったく新しい価値が生まれうるのでは・・・、という考えを改めて再確認できた気がします。彼女たちの考え方、生き方、作品の姿や形に共鳴した証なんていうと大げさですが、KARINさんのベルトとカバン、ANITAさんの衣装を注文しました。アートもこんな感じで流通してくれると気持ちいいのですが。それはまた別の課題ですね。

あと少しのオーストリア滞在ですが、また何か新しい発見をして、皆さんとシェアしたいと思います!


▶sound artist mamoru HP
 http://www.afewnotes.com
▶sound artist mamoruブログ
 http://blog.livedoor.jp/soundartist77/


Written by sound artist mamoru
オーストリア・ウィーン在住