SALONE ARCHIVES in Milan
黒川雅之のサローネ情報

黒川雅之のサローネ情報2007 vol.1
NEXTMARUNIにみる生活のシーン

2007/04/18
いよいよ、今年もミラノサローネが始まる。特別な緊張感がホテルや街に漂っている。
世界から人々が続々と集まり、色々な噂や意見がこの地に働く人々の口から僕の耳に漏れてくる。ロンドンの大学から学生がこぞってサテリテに展示しするらしい、とか「サローネはイタリアと日本のためにあるみたいだね」という人もいる。それほど日本のサローネ熱はピークに達しているらしい。スタジオを訪問したあるイタリアのデザイナーは案内状の山を指して,これはもうゴミだよと言って退けた。「その中に僕のもあるよ」というと「あ、僕のも入っている!」とまるで笑い話である。
ミラノサローネはそれほどに高まりを見せ,ねこもしゃくしもサローネである。「サローネなんかもうおしまいさ」という人もちゃんとサローネに作品を出している。「これほど集まるともう見切れないからな」といいながら来年はうちの会社も出展するんだと言う人もいる。

やはり特に日本はすさまじい。ロンドンの100%デザインは東京でも開催するし、ミラノでもまるで東京デザイナーズ・ウィークがごっそり来たみたいだ。きっとサテリテでは多くの日本人デザイナーの卵たちに会うことだろう。東京で開催する新人発掘のデザイン展である「デザイナーズ・カタログ」の指名デザイナー探しもこのサテリテでやろうと思っている。やはりやる気のある連中は自発的にここまで来る。
そのミラノサローネが今日から始まる。これはその前日のレポートである。

ネクストマルニの展示に大騒ぎだった。古い会場は設備がうまくない。照明のコンセントはとんでもないところにあってうまく展示物を照明できない。そんな最中にハッリ・コスキネンが現われた。ぎりぎりまでの試作だったからハッリも僕もここで自分の作品を初めてチェックしている。ハッリも僕もおおよそは了解できたので良かったのだが少し前に訪れてくれたアルベルト・メダは二つの試作品のうちの一つを会場から撤去してくれと言い残していったらしい。やや大きめな作品なのだが黒い色のフレームと黒いレザーの色彩が会場で特異に見えたらしい。会場の統一感をなくすから撤去しようというのである。メダらしい発言である。かれは自分の作品への不満ではなく他のデザイナーへの配慮から遠慮したのである。

報告1/ネクストマルニ
今年のネクストマルニは「LIFE STYLE NEXTMARUNI 」である。これまで一つずつ小椅子からアームチェアーと椅子を追求して来たのだが、今年はラウンジチェアーとそのための小さいテーブル、そしてダイニングテーブルとテーブルセッティングを見せることでネクストマルニ式の「生活のシーン」を表現することにしている。その一部を紹介しよう。

先ず始めは黒川雅之,自分のラウンジチェアーである。デザイナーへの課題提出と展示コンセプトなどのプロデュースを担当するのだから「ラウンジチェアーとは座っていてちょっと眠くなる快適な椅子」というテーマをちゃんと守っている。結果はそれに正直に応じたのは僕と国際コンペティションの審査員を受けてくれたアルベルト・メダの二人だけだったように思う。
写真の手前の黒いのが僕の作品,左にナチュラルな素材のタイプがちらっと見える。同じテーブルにいる向こう側の椅子は深沢直人のラウンジチェアーである。彼は小さいテーブルのデザインが間に合っていない。眠くはならないのだがやさしい座り心地でさすがに深沢だと思わせる作品である。ちなみにハッリは僕のラウンジチェアーを絶賛してくれた。いくつになっても褒められると嬉しい。


ハッリ・コスキネンのラウンジチェアーである。手前の白いのと真ん中の椅子とテーブルである。一寸した修正を指示していたがおおよそ気に入っているらしい。小椅子から発展させてここまで来た。向こうに見える楽器は今回のテーマ、「ネクストマルニのライフスタイル」に合わせてサロンのイメージを出すべく、ヤマハの協力をえたクラビノーバである。MODUSという。自動演奏で会場を色付けている。20日のパーティーには飛び入りでの演奏があると嬉しい。


ハッリと深澤のダイニングシーンである。手前がハッリ。テーブルの上にある食器も自分の作品である。おおらかな皿で気持ちがいい。ダネーゼから近々発売されるそうである。深澤の作品は遠くてよく見えないが食器はどうも彼自身の作品らしい。確認しそびれている。いつかまた報告しよう。無印良品のもののように見える。


黒川雅之のダイニングテーブルである。800×1200タイプのテーブルは新作である。小椅子は2005年に発表の作品に座の感覚を改良した新タイプである。座り心地が随分よくなった。テーブルの上に展開するお敷き(お盆のようランチョンマット)と食器等は同じ黒川,すなわち僕の作品である。お敷きはしばらく前に発表済みだし、GOMの調味料のグラインダーは25年程前の僕のデザインである。しかし、磁器の食器は新作でできたてのほやほや、株式会社Kという新会社からこの秋には発売される。(www.k-shop.net)。

植木莞爾のダイニングシーンである。テーブルが新作である。食器のデザインも彼自身によっている。植木莞爾独特の普通感がいい。


□ アルベルト・メダとコンペの優勝案については次回にしよう。今日の初日に撮影して報告したい。ネクストマルニのこれまでの活動をプロデューサーとして「企画をし、その語の結果を見てくるといくつかの想いが浮かんでくる。ブランディングは大成功といていいだろう。初年度のメディアの取材は世界の120誌にのぼり、家具の業界で知らぬものはいない程になった。戦略勝ちである。販売は本当には順調とはいえない。海外への販売を70%にと目指したのがその通りはいっていない。もう一つ僕の誤算は「人々は自分の考えで個性的なインテリアをつくる時代」と考えたのだがなかなかそうはいかないことである。人々は「コーディネートされた空間」を与えて欲しいらしい。まだ「自発的な内部空間の創作の時代」は遠いらしい。そんなところかネクストマルニのライフスタイルを提言することになったのである。「イッセイ・ミヤケのシャツに山本洋司のパンツを合わせ、自分の親父のチョッキを改造して調和させる」センスはまだまだ育っていないらしい。

□ ネクストマルニはそもそも「個性的なデザイナーによる個性的な椅子を調和させる仕掛を持ち、そのような多数の個性の調和を美しいと考える思想」をもって登場している。今は「椅子屋」を目指しながら微妙に空間に手を伸ばして少しだけ「生活空間屋」であろうと考えている。個性的なデザインを追及する手は緩めたくない。理解の深まる日をじっくりと待っていたい。

□ もう一つここでこっそり主張している展示物がある。僕自身のダイニングシーンに登場している食器類である。僕が始めたKという会社の初めの商品発表である。この会社は「これからのものづくりのあり方を問う」ことを目的につくられた。Kはメーカーであり、プロデュース会社である。Kはソフトだけを担当して、Kスタジオ(黒川のデザインスタジオ)がデザインを担当し、製造装置と技術をもつメーカーがハードを担当する、アライアンス関係をもつ企業体である。OEMで生産を委託するだけのソフトなメーカー、工場を持たないメーカーと似ているのだが根本から相違しているのは安くていいものがつくれるメーカーにいつでもOEM先を変更するつくり手を競争の原理に置く構造ではないことである。KはOEM先に役員の派遣をお願いして「つくり手の文化を取り込もうとする」組織である。その思想については以下のウェブサイトの「Kについて」を見て欲しい。まだ発売を開始していないオンラインショップである。多くの取扱店の申し出を期待している。ここでも世界に向けて販売し、その内、複数のデザイナーのデザインを依頼していきたいと考えている。

www.k-shop.netを覗いて欲しい。このサイトは近々designtope.netのD-SHOPの中に組み込まれることになっている。複数のデザイナーにデザインを依頼するのにはもう二三年かかるだろう。