Yasuko's Room
元アクシス編集長関康子のデザイン寄稿

建築家セドリック・プライスを追悼する「Doubt、Delight + Change」展
関康子

2005/09/28
デザイン好きならば必ず訪れるロンドンのデザインミュージアムで、昨年夏亡くなった建築家セドリック・プライスの展覧会が開催されていた。タイトルは「Doubt、Delight + Change」。入口には、20世紀後半の革新的、先鋭的建築家のひとりであり、その建築と都市への働きかけにおけるアプローチは、リチャード・ロジャースやレム・コールーハースに至る現代最も活躍している建築家たちも大きな影響を与えている・・・というような説明がある。


スケッチや模型が解説付きで展示されただけの
シンプルな構成(上・下)


ロンドン動物園なのプライス設計の鳥籠


今では木々が育って、その存在感は薄いが、
鳥たちにとっては住み心地が良さそう。
展覧会自体は、デザインミュージアムの4Fの小さいスペース。リチャード・ロジャースやレム・コールハースにも多大な影響を与えた偉大な建築家の追悼展にしては質素だ。
私は、建築をしている夫から彼の偉大さや業績を聞かされていたから知っていたが、建築に詳しい人でなければ通り過ぎてしまうくらいのささやかな規模。会場には、立派な模型も、作品に仕立てられたドローイングもなく、派手なインスタレーションは一切ない。けれども、すっかり変色してしまった用紙に描かれたスケッチや図面には、彼の建築と都市の新しい関係の模索、時間や人間の行為に沿って刻々と変化する装置としての建築の可能性の探求、建築を空間という「概念」から人間か活動する「場所」へと変換させるための仕掛けなどなど、今では当たり前になってしまった構想が満ち溢れている。それでいて作家性、名誉や地位に頓着しなかったであろうプライスという建築家の人柄がありのままに表現されていた。1960年代、イギリスがビートルズに沸いていていた時代、建築の世界ではこんなことを考えていた人がいたんだ。

彼のさまざまなアイデアは机上で終わったモノが多いが、その思想は後のアーキグラムやスーパースタジオを刺激し、「FUN PALACE」プロジェクトはリチャード・ロジャース+レンツォ・ピアノによるパリのポンピドゥ・センターに受け継がれ、磯崎新さんは氏の著書『建築の解体』中で、FUN PALACE と1970年の大阪万国博覧会「お祭り広場」の構想との重なりについて記述するなど、未来の建築に対する示唆に富んでいたのだろう。
そんなセドリック・プライスの唯一という作品が、世界初の動物園「ロンドン動物園」の大鳥籠だという。これは見ておかなければと、1人14ポンド(1ポンドが約200円だったので、2800円ですね)という入園料を払って見に行った。ステンレス鋼やアルミニウム網を駆使し、張力ケーブルによる吊り構造の軽やかな施設。外から見るだけでなく、中を人が通り抜けることもできて、鳥を観察しているのか、鳥に観察されているのか・・・という逆転をもたらす仕掛け。プライスという人のユーモアを感じさせる鳥籠だ。

展覧会を一通り見終わってから、改めて入口のタイトル部分の横に便箋大のセドリック・プライス在りし日の写真が添えられていることに気づいた。お腹が出た穏やかなイギリス紳士という風貌。AAスクールで教鞭もとっていたというから、彼の思想を継承する建築家はきっと多いはずだ。そして40年も昔のアイデアが、時代や技術や人々の生活の経過に沿って受け継がれ、現代建築に基盤になっているんですね。10月9日まで開催されているようなので、ロンドン行きの計画のある人は、是非足を伸ばしてみてください。